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バイスティック(Biestek,F.)の7原則

病気の仕組みや治療法ばかりを習っていて、患者との距離の取り方など いわゆる看護の分野の知識がないとはよくいわれることです。疾病によって 人は弱者になり、他人からの援助が必要になりますが、その援助の仕方によっては 有難迷惑だったり、迷惑でしかなかったりすることもあります。 基本的に医者は生命の保持を一番の目的としていますから、時たま患者に 「生かしてほしくなんかなかったのに」とか言われることがあります。 先人たちは、どのようにして弱者を一人の人間としてとらえてうまく援助 できるか考えてきましたが、バイスティックの7原則はその方法のひとつです。 解釈の如何によってはほかの分野にもあてはめられるかもしれないので、 まとめてみました。

1 個別化の原則

今回のAさんは、性別も年齢も見ためも家族構成も問題点も、おとといのBさんと ほとんど同じだから、Bさんに接した時と同じように接していいかといえば、 そうではないという話です。基本的には経験に基づいた学問なので、少しずつは異なるけれど、 ほぼ同じような疾患を何回も見ることで、今度も同じ疾患だろうというあたりがつくようになる というのがベテランへの道と言わます。大方はそれでもOKですが、どこかに落とし穴があるとは よくいわれることです。今回も同じようだけれど、何かが他に隠れていないかを常に気にするように しなければならないということでしょう。

2 自己決定の原則

交通事故にあったCさんが救急外来に運ばれてきました。出血多量で、生命の危機に瀕しています。 一般的には、輸血して助けなければならないでしょう。でも、ちょっと待って。本当に そのまま輸血してもいいのでしょうか。輸血を否定する考えの人であるかもしれません。 自分がいいと思ってやっても、その実、本人には迷惑でしかないことも多々あります。 もっと小さな例で言えば、部屋の窓を開けるかどうかという選択が正しいかどのように判断するでしょう。 暑いから窓開けるよ、と言って、窓をそのまま開けてしまうでしょうか。一般的には、同じ部屋にいる人 もしくは、その部屋の主と思われる人の意向を伺ってから決めるのが普通でしょう。 ○○しますよと言ってしまっては、選択権を相手から奪ってしまうことになると考えます。

3 受容の原則

世の中にはいろんな人がいます。基本的には、人間だって動物の一種ですから、周りの環境 に適応できる、考えられうる行動の中で最適と判断した方向に、意識するにせよ無意識下にせよ 動いていきます。中には、その判断がおかしいとしか思えない人もいます。極端な例で言えば、 例えば、アスペルガー症候群の人の多くは、自分の中に、自分と異なる考えをもつ 他人を形成することができず、他人も自分と同じように考えていると認知した上で行動すると言われています。 この、「自分の中の他人」を、心の理論(Theory of Mind)と名付ける人もいるようです。 ですから、自分が相手に好意を持った場合は、相手も自分のことを同じように好意を持っている、 自分の好意が相手に受け止められないはずがないと考え、しばしば問題を引き起こすことがあるようです。 また、逆も同様で、自分の嫌いなことは相手も嫌いと考え、面倒なこと一切に触れようとしない傾向が あるようです。こちらが面倒に巻き込まれたくないのなら、関係を断つのが良いのでしょうが、 できるだけ良好な関係を保たなければならない場合、壁を取り除かなければなりません。 上で述べた、自分の中の他人を形成するには受容が大切ということになります。

ちょっと話は変わって、医者がよく嫌うといわれる精神疾患の中に、境界性人格障害というものがあります。 診断基準など(DSM)は他にあるので割愛しますが、基本的には、自分自身で認識する自己が曖昧なために、 自分のなかの自己の揺らぎに応じて他人のとらえ方がころころと変わってしまうため、 相手を持ち上げたかと思ったら、突然けちょんけちょんに貶したりといったことを繰り返す疾患です。 一般的には、見捨てられ不安、私を見て症候群といわれています。 こんな、ころころかわる認識を受容すると、自分までもが影響を受けてしまい、いわゆる 人格障害がうつったとか転移したとか言われることが起きやすく、自分までもが「おかしな揺らぎのある」 人格になってしまいたくないとか、あるいは、そもそもこの疾患自体治療が非常に難しいこともあって かなり嫌われているようです。ただ、多くの精神科では根気強く治療されていますし、 解決策がないわけではないので、悲観する必要はないでしょう。

4 非審判的態度の原則

上で述べた、受け止めた人格を自分の中でどう判断するにしても、それを否定しまっては、 その人と関係を持たないという結論しか出てきません。もちろん、どうしても関係を持ちたくないという 場合もあって、その場合は仕方ありませんが、多くの場合は必要に駆られて関係を持たざるを得ないこと が多いようです。そんな時は、否定せずに、解決への道を探るしかありません。合っている間違っている、 ああすればよかった、こうすればよかった、と悩むのではなく、これからどうすればよいかを考えるしか ないということです。与えられた環境に感謝して、今できる自分の精一杯の努力をしましょうとは 色々なところでよく言われることですが、言うは易し、行うは難しで、なかなかうまくいかないんですがね。

5 秘密保持の原則

プライバシ全部と言ってもいいでしょう。医師などに関しては、刑法第134条の秘密漏示罪が適用されるので、 という抑止力もありますが、自分のことをペラペラ話されては、人間関係もあったものではないでしょう。 何か聞かれても、何かを知られていても、「ごめんなさい、お答えできません」で通すしかないですし、 自分から話すのは、たとえ家族であってもいけないことです。信頼関係を築くためにも大切でしょう。

6 統制・制御された情緒関与の原則

感情のコントロールがキーワードです。相手に反応して自分が怒ってしまっては、相手の気持ちを わかるどころか、自己分析もできなくなります。受容し、非審判であっても、そこから感情的に なってはいけないという防波堤のような原則なのでしょう。

7 意図的な感情表現・表出の原則

初対面ではあまり人と話せなかったけれど、時間を追うごとにだんだん打ち解けて、 色々なことを話せるようになったというのはよくあるパターンだけれど、いつのまにか 自分のことばかり話してはいませんかという注意でしょう。あるいは逆のことを考えているかもしれません。 相手の気持ちを引き出すにはどうすればよいでしょうか。 相手の話をよく聞かないと、何かを見落とすかもしれません。相手があまり話さなかったり、 こちらが受容するほども相手がこちらに打ち明けなかった場合に、どうにかして関係を保つために 積極的にこちらから相手に働きかけるための原則かもしれません。

もともとは、看護・福祉等に関わる者すべてが守るべきこととして考えられましたが、 いろいろと参考になる点があります。

For a light heart lives long.
		-- Shakespeare, "Love's Labour's Lost"

Q:	What do you call the scratches that you get when a female
	sheep bites you?
A:	Ewe nicks.


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